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電脳戦機バーチャロンCG画集 SELECT -issue01-」スペシャル対談

HIPSからリリースされた電脳戦機バーチャロンCG画集「-SELECT- issue01」。
今回、バーチャロンCG誕生のキーマンといえるVOW所属のデザイナー”森×有井”コンビにインタビューを決行。「なぜ今-SELECT-なのか?」「VOWの目指したCGとは?」この機会に語ってもらった。
「SELECT」を見ながら読むといっそう楽しめるので、購入された方は是非。
あ、もちろん未購入の方もどうぞ。



―― まず、どういう経緯で「SELECT」を作ることになったんでしょう?
有井: 『ワンマンレスキュー』のボックスアートを集めて画集にしようかっていう話があって。
それだけだとサービス精神にかけるから、今まで作ったビジュアルもすべて網羅しようかなと。
森: 雑誌の表紙とか、暑中見舞いとか、メディアが散らばってるのが嫌だったんだよね。ボックスアートだけ見るために、わざわざ棚からプラモを引っ張りだすの面倒くさいし。
「一冊にまとまってると嬉しいよねー」なんてことを言ってるうちにホントに作ることになったので、俺的には願ったりかなったり(笑)。
有井: 雑誌の表紙やなんかは文字がのせられてたり見開きだとノド(注1)にかかっちゃった状態でしか見られないから、一枚絵で見せられるのは嬉しいね。
―― でも、なんで書店売りじゃなくてHIPS専売という形をとったんですか?
有井: 流通を通して販売となると、関わる会社(人間)も増えるし部数も刷らないと採算が合わなくなる、悲しいかなこの本は何万部も売れるような本ではないじゃない(笑)。でも、欲しがってくれるユーザーもいるわけで。どうしようか考えあぐねていたときに「あ、うちにはHIPSがあるじゃん!」って(笑)。
HIPSって、儲け第一主義じゃなくて、ファンサービス(パブリシティ)の要素も持っているから、そういう意味でも「SELECT」はHIPSのコンセプトにあった商品なんじゃないかと思ったんだよね。
森: HIPSだと何かと小回りが利くからね。
―― 作り手からの直発信ですからね。こういったケースってすごく珍しいですよね。

有井:

そうだね、システムとしては同人誌の製作と一緒だし(笑)。
そうそう、いままでの印刷物との違いがひとつあって、前回のポスターセットでも使ったんだけどデータから直接印刷(注2)したことで、いままでの通常印刷では出ていない色も出てるね。『千と千尋』じゃないけど、ホントはこっちが正しい「色」です(笑)。

森:

って大丈夫か? 赤くなってないか?(笑)
―― CGモデルってどういう手順で作ってるんですか?

森:

細かい3D指定稿は無くって、カトキさんに描いてもらったイラストをもとに作り始める。「羽の下の継ぎ目はどうなってるの?」とか、そういう部分を追加で描いてもらってるけどね。

有井:

カトキさんには割とお任せしてもらってる部分が多いですね。
―― じゃあカトキさんもバーチャロンワークス(以下VOW)には絶大な信頼を置いているんですね。

森:

我々はそういう風に捉えてます(笑)。

有井:

でも、カトキさんのイラストとまったく一緒かといえば違うわけですよ。やっぱりVOWテイストというのもあるので、その辺はお互い納得がいくように進めてるよね。
―― モデルが出来てからカトキさんの修正が入ったりすることはあるんですか?

森:

97年に一番最初に作ったオラタン版テムジンでちょっと直しをいれてもらったくらいかな。

有井:

他は基本的に無いかなぁ・・・あ、一個あった。フェイ・イェン・ザ・ナイトのハイエンドを作ったとき、カトキさんからの画稿が割と曲線で構成されてて。で、僕が森くんに「できるかぎり人間っぽい感じで構成してくれ」って指示を出して(笑)。あとでカトキさんに怒られた「なんであんなに丸いの? 僕はもうちょっと四角い方がよかったなぁ」って。並べるとわかるんだけど、ゲームモデルとハイエンドは全然違います。ハイエンドは異様に「生身な」感じになってますね(笑)。

森:

僕はもっとメカっぽく作ろう思ってたんだけど、有井君が「女の子なんだから全身やわらかい感じに作らなくちゃダメだ!」とか言うから(笑)。

有井:

OMGの時は直線で構成されたフェイ・イェンが良かった。良かったんですよ。じゃあ今回のハイエンドはもうちょっと「人間の女の子っぽい」方向で作れないかなぁって、ロボットが今までできなかった女の子の表現?、CGでも当時やってなかった表現だったし・・・

森:

っていうか異様にカワイイよな。

有井:

うん。カワイイ(笑)。
―― いままでたくさんのモデリングをしてきたと思うんですが、そのなかでも特別思い入れがあるバーチャロイドとかあります?

森:

ハイエンドをモデリングするときのフォーマットが明確になったのはオラタン版ライデンからだったので。 そういう意味ではライデンは記念碑的存在だよね。まあ、それから地獄が始まったっていうのもあるんだけど(笑)。

有井:

そうだねぇ・・・。
―― そのときに完成したフォーマットってどういった部分なんでしょう?

森:

オラタンテムジンを作った97年頃はなんとなく漠然と作ってたんだけど、仕上がりを見たらガンプラに負けてたんだよね。俺はもともと模型をやってたから、模型にまけるのがすごい悔しくって。有井君と「なんでだろう?」って話しててあるとき気づいたのね。「ああ! 墨(スミ)が足りねぇ!」と(笑)。墨っていうのは装甲と装甲のつなぎ目の黒い部分なんだけど、漠然とCGで作ってると無くなっちゃうのよ。

有井:

浅いんだよね。彫りも浅いし幅も狭い。

森:

平面からただ箱が突き出してるだけで、平面と箱の境界線に黒い線が出ないのよ。

有井:

イラストで描線ってあるでしょ? そういう線が見えてこないのよ。

森:

模型は立体だから、自然と影とか質感が出てくるんだよ。模型には昔から墨入れっていう手法もあるわけだし。でも、こっちにはそれが無い。じゃあやるか! って実際にライデンでやってみたら、それはもう仕上がりが一気にレベルアップした。でも、それって工程としてものすごい大変だぞ、とか思いつつ、しょうがねえこれ見ちゃったらもう後戻りはできねえ! って(笑)。他の人にも、このライデンの仕上がりに揃えてくださいって言っちゃったもんだから、悪いことしたなぁとは思ってるんだけどね(笑)。

有井:

「パースぺクティブ」に出したオラタン版テムジンと、いま出てるオラタン版テムジンはまったくの別物。
それまでのCGの手法で作ったロボットってのは「パースぺクティブ」のテムジンなんだよ。だけどオラタン版ライデン以降はその墨の部分と、面の取りかたが違うよね。
―― 面のとりかたとは?

有井:

エッジ(角)に面を増やしてるの。そうすることによってただのプリミティブなオブジェクトから、 成形されたひとつの「モノ」になるんだよ。手間はすごくかかるんだけど。それらの組み合わせと積み重ねで構成されてハイエンドモデルが完成する。 だから頭部ひとつとっても、さらにいえば頭部カバーだけ見ても形としてすごく良く出来てる。 それがさらに連動して動かせるんだから、そりゃもう・・・

森:

ハハハ、でもそれを知ってるのは作ってる俺と動かしてる有井君だけなんだけどね。

森:

俺は俺でモデリングしてるときに「よし出来た!ウヒョー!!」とか言ってて、有井君は有井君で「ギャー!!」っていいながら動かしてる。それはそれで面白いよね(笑)。

有井:

おもちゃと一緒だよ。ガンプラでも組んでるときに、「うわースゲエこれ!」とか唸りながら作ることってあるじゃない?それに近い感覚。
―― じゃあいってみれば、森さんはガンプラを組み立てるのが大好きで、で、有井さんは、森さんが作ったプラモで、「ガシャーン!ガシャーン!」とか言いながら遊ぶのが楽しいって感じなんですかね(笑)?

有井:

そういう関係かもしれない(笑)。

森:

でも有井君が乱暴に扱うからさー、キッチリ作らないとこっちが意図したように遊んでくれないのよ(笑)。

有井:

僕らの仕事ってガンプラ作って遊ぶのと似てるのかも、ホントに(笑)。

森:

そんな俺と有井の最新作フォーステムジンのハイエンドは、5年前に発見した手法の、ある意味完成形っていってもいいでしょう。 尋常じゃないクオリティなので、見過ごしてた人はよーく眺めてみてください。今回の画集には載ってませんが(笑)。

有井:

フォーステムジンだけで一冊本ができるくらいのものだよね。

森:

あらためてデータ見て、あきれたもん。自分で作ったスキマティックの構造がわからなかった。これ、何がどこで連動してたっけ?って(笑)。
―― 最後に、バーチャロンユーザーのなかにはCGデザイナーを目指してる人もいると思うんですよ、そういった人たちにメッセージをお願いします。

森:

テクニックというよりは志の問題だよね。自分は何が作りたいのか、っていうのがないと曖昧なものになっちゃうよね。

有井:

ただ作ればいいんじゃなくて、例えばカトキさんの絵からCGを作り起こすとき、僕らがどう思いながら作業してるかってことを考えてくれると答えが見つかりやすいかもね。

森:

「オレ3DCG好きー!」ってだけで作るのもいいんだけど、プロになりたいのであれば、自覚的にしたほうがいい。自分が作ったものに対して"なんか変だな"と思えるんだったら必ず糸口はあるわけだからさ。そこで考えることをやめずに、なんで変なんだろうってずーっと考えたり、何を見ても自分のやってることと結びつけるくらいのことをしないと、自分が目指してる本物にはなれないんだろうなぁ、とは学んだね。こんだけ作ってさ(笑)。
―― こんだけ作って学びましたか(笑)

森:

有井君は有井君でレンダリングする立場から見て、やっぱりなんか変とはずーっと思ってたんだよね。 ずーっとふたりであーでもないこーでもないって考えてたもんね。
―― ひとりで考えるだけじゃなくて、他人と相談できたってのも重要なのかもしれません

有井:

それは大きいね。

森:

同じ視点で、同じ言葉で話せる人がいるのは大事だよね。だから友達は大事にしとけ!
―― なんか偉そうっすよ(笑)。

森:

だって97年からずーとやってるんだよ。逆をいえば97年に作られたCGでいまでも遜色ないのっていくつあるよ、って考えたらほとんどないよね。そこには絶対的な自身がある。これが正解とは言わないけど、絵としてのひとつの表現の姿ではあると思うし、まだ古くはなってないと思う。まあ、当時の俺はそれくらいやらなくちゃ気がすまなかったっていうのもあるけど。

有井:

もう5年だし、この手法もさすがにもうだいぶ落ち着いてきたよね。これからさらにワンステップ上を目指すとなると、膨大な時間が必要になるんだろうなあ。

森:

俺らは天才じゃないからさ、長い時間唸るしかないワケよ。降りてきてくんないから。もう5年前(オラタン版ライデン)のようなブレイクスルーは当分無いだろうな。

有井:

あるとしたら何が出てくるんだろうね。自分でもわからないや。

森:

また唸るかぁ。あー大変だ(笑)。


2002年9月ヒットメーカーにて

有井 伸孝
VOWには初代OMGより参加、バーチャロンのパブリシティデザインの全てを手がけるSEGAグループを代表するグラフィックデザイナー。
有井デザイン=バーチャロンのビジュアルイメージである。色々苦労の人であるが、たぶん天才。

森 康宏

プロ原型師を経て、オラタンよりVOW参加のCGデザイナー。
前職で培ったアナログ造形のスキルとセンスを生かし、VOハイレンダリングモデルのほぼ全てを手がける。努力の人であるが、たぶん天才。
注1:印刷用語で、本の綴じしろ側のこと。

注2:通常の印刷では、1〜5%の色の差を再現することが難しいが、今回使用した「CTPオンデマンド印刷」では、グラフィックデータから直接「刷版」を作るシステムのため、データの持つ情報をほぼ100%再現することが出来る。




■電脳戦機バーチャロンCG画集 SELECT -issue01-
●サイズ:
A4・横(H210mm×W297mm)
●仕 様:
フルカラー/ソフトカバー/全60ページ(収録CG:51点)/ビニールパック封入
●価 格:2,900円(税・送料別)
●発売日:2002年9月19日(木)
HIPS専売2000部限定
販売は終了しました